01
基金は、目的を持った
自治体の「備え」です。
学校の建て替えには、まとまったお金が必要です。災害や税収の減少にも備えなければなりません。こうした将来の支出に向けて、自治体が資金を積み立てておく仕組みが「積立基金」です。家計でいえば、教育費や家の修繕、万一のために分けておく貯金に近いイメージです。
学校・施設の整備
建て替えや大規模な修繕に備える。
災害・税収の変動
急な支出や収入減に対応する。
借入金の返済
将来の返済に必要なお金を確保する。
毎年の予算が「その年に何をするか」の計画なら、基金は年度をまたいだ備えです。基金にはこのほか、特定の事業のために一定額を繰り返し使う「定額運用基金」もあります。ここでは、まず積立基金を中心に説明します。
基金の役割の参考:杉並区「積立基金とは?」、新宿区「財政運営状況」基金の目的
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使う日まで、
どう保管しておくか。
積み立てたお金は、すべてを明日使うわけではありません。必要になるまでの間、預金や債券で利子などの収入を得るのが基金の運用です。その際は、次の3つを一緒に考えます。
- 安全性
- 必要なお金を失わないよう、返済の確実性などを確かめる。
- 流動性
- 必要なときに、必要な額を支払いに使えるようにする。
- 効率性
- 安全性と必要な資金を確保したうえで、運用収入を得る。
たとえば、来月使うお金と5年後の工事に使うお金では、ふさわしい運用期間が違います。基金がいくら必要か、いつ使うのかを確かめることが、運用を考える出発点になります。
03
預金と債券、
何が違うの?
預金は金融機関にお金を預けること。債券は、国や地方公共団体などがお金を借りるために発行する証券で、購入する側はお金を貸す立場になります。
| 見るポイント | 預金 | 債券 |
|---|---|---|
| お金が戻る時期 | 普通預金は随時、定期預金は定められた満期が基本。 | 定められた満期に、発行体が約束した額を返済。 |
| 得られる収入 | 預入額・期間・金利に応じた利子。 | 利子に加え、購入価格と償還・売却価格の差も影響。 |
| 途中で現金が必要なら | 定期預金の中途解約では、適用金利が下がることがある。 | 市場で売却する場合、価格次第で損失が出ることもある。 |
債券の「満期」は返済の予定日です。満期の時期を分けて持つと、毎年戻ってくるお金を支出に合わせやすくなります。ただし、発行体の信用や資金需要を確認することが前提です。
債券の保有比率が高いことだけで、運用が上手とは判断できません。いつお金が必要か、どの商品をいつ購入したかを合わせて見ます。
債券の仕組みの参考:財務省「新窓販国債」。預金の中途解約条件は商品・契約により異なります。
04
小さな率の差も、
金額にすると見えてくる。
利回りは、運用するお金に対して、どれくらい収益が得られたかを示す割合です。100億円を1年間、同じ残高で運用する単純な例で考えてみましょう。
差は年間4,000万円。運用の工夫が、将来の財源に影響することが分かります。これは計算を理解するための仮定で、実際にこの利回りを得られるという予測ではありません。
お金の額と「買えるものの量」は違う
100億円が運用で1%増えて101億円になっても、物価が同じ期間に2%上がれば、前年の価格に換算した価値は約99億円です。101億円 ÷ 1.02 ≒ 99億円。お金の額が増えても、買えるものの量が減る場合があります。
学校の建設費なども踏まえ、将来必要になる事業を実施できるかを考えることが大切です。この例の物価上昇率は仮定であり、建設費が一般の物価と同じ割合で動くとは限りません。
05
なぜ、こんなに
低い利回りなの?
株式投資やGPIFの運用実績と比べると、自治体の基金の利回りは低く見えるかもしれません。背景には、法律上の要件と、使う時期・必要額が決まっているお金の性格があります。運用している商品の購入時期も影響します。
法律が求める「確実さ」と「効率性」
自治体は、基金の目的に応じて、確実性を確保しながら効率よく運用する必要があります。主な根拠は次の規定です。
| 法律 | 求められること |
|---|---|
| 地方自治法 第241条第2・3項 | 基金は条例で定めた目的に応じ、確実かつ効率的に運用する。特定の目的のために財産を取得・積立てする基金は、その目的のためでなければ処分できない。 |
| 地方財政法 第4条の3第3項 | 同条に基づく積立金は、金融機関への預金、国債・地方債・政府保証債などの購入を例とする、確実な方法で運用する。決算剰余金の積立てにも、第7条第2項によりこの規定が準用される。 |
さらに、各自治体の条例・規則・運用方針が、購入できる商品や運用期間などを具体化しています。収益を増やせそうだからといって、自由に大きな価格変動や為替変動のリスクを取れる仕組みではありません。
条文:地方自治法 第241条、地方財政法 第4条の3・第7条。地方財政法の上記規定の直接の対象は、同法に基づく積立金です。具体的な商品の可否は、基金の性格、法令の解釈、各自治体の規程を合わせて確認する必要があります。条文だけから、すべての基金について株式・外貨建て資産を一律に禁止していると断定するものではありません。
取り崩す日に、相場の回復を待てるとは限らない
積立基金には、学校の建て替えや施設整備などのために、お金を取り崩して使う予定があります。災害対応のように、予定を早めて資金が必要になる場合もあります。
たとえば、3年後の工事に使う資金を大きく値動きする資産で運用し、支払時点で価格が下がっていたらどうなるでしょう。「あと10年待てば回復するかもしれない」と、工事の支払いを先延ばしするわけにはいきません。使う時期に、必要な額を確保できることが重要になります。
GPIFや個人の長期投資との違い
公的年金の積立金を運用するGPIFは、年金財政の長期的な見通しを踏まえ、国内外の株式や債券に分散投資しています。個人の資産形成でも、長期間使わずに保有できる余裕資金であれば、時間をかけて分散投資の効果を期待できます。
自治体の積立基金は、個々の事業の支出予定や緊急時の資金需要、適用される制度が異なります。基金全額を長期間投資し続ける前提には立てず、GPIFや個人の長期分散投資と同じ成果を、単純に期待することは難しいのです。長期分散投資にも損失の可能性はあり、将来の収益が保証されるわけではありません。
参考:GPIF「基本ポートフォリオの考え方」、GPIF「長期分散投資の効果」。上記は、資金の目的と運用期間の違いを踏まえた本ネットワークの整理です。
以前の低い金利が、今の収入に残ることも
低金利の時期に購入した固定利付債は、世の中の金利が上がっても、受け取る利子が自動的に増えるわけではありません。保有資産全体の利回りと、今新しく購入する商品の利回りには差が出ます。また、このサイトの調査値は各区の回答した収入や利回りであり、株式などの値上がり益・評価損益を含む運用実績とは計算対象が異なる場合があります。
制約と改善の余地を、国とも議論していきます
使う時期を丁寧に見極める、当面使わない資金の運用期間を検討する、債券の満期を分散するなど、安全性と必要な資金を確保しながら改善を探ることは大切です。物価上昇による実質的な価値の目減りも、合わせて考える必要があります。
自治体基金マネジメントネットワークでは、こうした法制度上・実務上の制約も含めて議論し、国とも意見交換を行う予定です。
現行制度で改善できることと、国の解釈の確認や制度の検討が必要なことを整理し、将来の行政サービスを支える基金の管理・運用を考えていきます。
06
23区の数字は、
前提と一緒に読みましょう。
このサイトは、新宿区議会事務局調べ(2026年8月31日調査)の回答をもとにしています。各区の状況を知り、改善のヒントや確認したい点を見つけるための比較です。
- まずは、関心のある区を選ぶ。
基金の規模、年間の運用収入、預金・債券の配分を見てみましょう。
- 利回りの「分母」と「期間」を確認する。
年度末の残高で割るか、年間平均の残高で割るかで数値は変わります。この調査にも定義の違いがあるため、単純な優劣の順位にはできません。
- 公開状況と注記も読む。
「調査に未回答」と「非公表」は別です。「運用実績を非公表と回答」した区でも、基金残高などは公開している場合があります。
サイトの参考収入率=年間運用収入 ÷ 回答された基金総額 × 100。基金総額の定義や対象範囲が混在するため、条件を統一した運用成績ではありません。
詳細はデータの読み方と各区の確認事項へ。
もっと知りたい方へ
基金運用の改革は、
何から始められる?
さいき陽平が、情報公開や他自治体の事例調査から学んできたこと、地方議員としての取り組みをnoteにまとめています。
数字の、その先へ さいき陽平のnoteもっと活かせないの?情報公開から、今の制度でできる工夫、その先の制度の課題まで。港区議会議員として取り組んだ経験を、順を追って紹介します。
- まず、何を公開してもらう?
- 今の制度でも、運用を改善できる?
- 制度の壁に、どう向き合う?
自治体基金マネジメントネットワークでは、まずは東京都23区を中心にメンバーを募集しています。
お問い合わせ:info@saikiyohei.com